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大切な着物のお手入れの第一歩!正しい着物の畳み方

着物は、日本の伝統と美意識を象徴する大切な衣装です。その優美な姿を長く、そして美しく保つためには、着用後の正しいお手入れが欠かせません。
着物にシワや型崩れ、カビを防ぐために、着物の畳み方は、保管の良し悪しを左右する最初の重要なステップとなります。
この記事では、初心者の方でも簡単に実践できる基本的な着物の畳み方である「本畳み」の手順から、シワやカビを防ぐための保管のコツまでを詳しくご紹介していきます。
着物のお手入れにおける「畳み方」の重要性
日本の伝統衣装である着物は、洋服とは異なり、その保管方法一つで寿命や美しさが大きく変わってきます。着用後に着物を収納する際の着物の畳み方は、単なる片付けではなく、その後の状態を左右する「お手入れの第一歩」です。
着物は、絹や木綿などの天然素材で作られていることが多く、湿気や虫食いの影響を受けやすいデリケートな衣類です。そのため、正しい手順で丁寧に畳み、適切な状態で保管することが、着物を長持ちさせる上で最も基本的な、そして最も大切な行為となります。この一手間が、未来に着物を引き継ぐための知恵と言えます。
間違った畳み方が引き起こすリスク
間違った畳み方をしてしまうと、以下のような深刻なリスクを引き起こします。
- シワ(皺)の定着
適当に畳んだり、畳み目を気にしなかったりすると、不自然な箇所に深いシワがつき、一度ついてしまうと簡単には取れません。特に絹はシワが定着しやすいため、正しい位置で畳むことで、もともとの縫い目に沿ったきれいな状態を保つことが重要です。 - 型崩れ
着物には、着用したときに最も美しく見えるよう計算された「着物の線」があります。これを無視して畳むと、その線が崩れ、次に着用したときに美しく着こなせなくなります。特に肩や袖山など、形を維持すべき部分に負荷がかかることで、着物のシルエットそのものが損なわれてしまいます。 - カビの発生
着用後の着物には、汗や湿気が残っています。これを畳む前の準備を怠ったまま、間違った畳み方で通気性を悪くして収納すると、カビが発生する原因になります。カビは一度生えると完全に除去するのが難しく、着物の寿命を著しく縮めてしまいます。
これらのリスクを避けるためにも、これからご紹介する基本的な着物の畳み方をしっかりと身につけましょう。
基本の着物の畳み方「本畳み」
着物の畳み方の基本中の基本となるのが「本畳み(ほんだたみ)」です。これは、着物を反物の状態に戻すように、縫い目に沿って正確に折りたたむ方法です。この本畳みができれば、ほとんどの着物は美しく保管できます。
Step1:おくみ線と前身頃を合わせる
畳む前に、広くて平らな場所(畳の上や大きなテーブルの上など)に着物を広げます。着物を広げ、右前(右身頃が下)になるように置きます。
着物の身頃中央にある「おくみ線」(着物の前身頃と衽(おくみ)の境目にある縫い目)を探します。おくみ線に沿って、手前の前身頃を内側に折り返します。ちょうど、広げたときに着物の半分の幅になるように合わせるイメージです。
この時、左右の身頃がずれないよう、襟の線や裾の線をきっちりと合わせることが、後の工程をスムーズにします。
Step2:袖を正確に折りたたむ
身頃を合わせたら、次は袖を畳みます。袖は着物の形を左右する大切な部分です。
身頃の上に重なっている袖を、袖付けの線(着物と袖の縫い目)に沿って、手前に折り返します。次に、袖の端、袖口の線に沿って袖をさらに折り返します。これで袖が二重になり、身頃の上にぴたりと収まります。
裏側の袖も同様に、袖付けの線から折り返し、身頃の上に重ねます。この際、裏側の袖と表側の袖が互いにシワにならないよう、優しく整えながら重ねることが重要です。
Step3:裾と肩をきれいに揃える
着物の丈の長さを整える工程です。
着物全体を縦に二つ折りするために、肩山の線(着物の真上にある折り目)と裾の端を合わせるように、着物の下半分を肩側に向けて折り上げます。
または、着物の裾から、着物丈の半分の位置(おはしょりになる部分の下あたり)で折り上げる方法もあります。この時、折り目の線が乱れると、次着る時にシワになってしまうため、しっかりと線を揃えることが大切です。
全体の形を見て、折りたたんだ部分に余計なシワが入っていないか、端がすべてきれいに揃っているかを確認します。
Step4:全体の形を整えて仕上げる
最後に、着物をたとう紙に収まるサイズに整えます。
着物全体を、縫い目に沿ってさらに二つ折り、または三つ折りにします。多くの場合、現在の着物は洋服ダンスや衣装ケースに収納しやすいように、横方向にもう一度二つ折りにされます。
着物の中心線(背縫いの線)がずれないように注意しながら、左右から中心線に向かって均等に折りたたみます。全体を手のひらで優しく撫で、空気を抜きながら、余計なシワを取り除いて完成です。最終的なサイズは、使用するたとう紙(文庫紙)に合わせて調整します。
着物をきれいに畳むコツ
本畳みの手順は分かっていても、実際に畳むとシワが寄ってしまったり、うまく線が合わなかったりすることはよくあります。ここでは、きれいに畳むための実用的なコツをご紹介します。
畳む前の準備:湿気と汚れの確認
着物を畳む前の準備は、保管の成功に直結します。
- 風通し
着用後の着物には必ず汗や湿気が含まれています。すぐに畳むのではなく、直射日光の当たらない場所で、一晩、陰干しをして風を通しましょう。扇風機などで優しく風を送るのも効果的です。このひと手間が、カビの予防になります。 - 汚れの確認
袖口、裾、襟元、帯を締めていた部分などにシミや汚れがないかを確認します。早期に発見できれば、ご家庭での対処や専門家への依頼が容易になります。
場所と姿勢のポイント
畳む場所と姿勢も、仕上がりの美しさに影響します。
- 広くて平らな場所
畳の上など、着物を広げても作業しやすい広い場所を選びます。狭い場所や不安定な場所で畳むと、着物が持ち上がり、シワになりやすいです。 - 姿勢
立って作業するよりも、正座や膝立ちなど、着物に近づいて作業できる姿勢の方が、隅々まで目が届き、着物を優しく扱えます。着物の縫い目に沿って手を滑らせるようにして、丁寧に形を整えることが大切です。
畳み目にシワをつけないための注意点
きれいな仕上がりを目指すための細かい注意点です。
- 空気を抜く
折りたたむ際に、着物と着物の間に空気が残ると、ふっくらとしすぎて、たとう紙の中で形が崩れやすくなります。畳んだ部分を手のひらでそっと押さえ、空気を優しく抜いていきましょう。 - 硬い折り目をつけない
洋服のように強く折り目をつけようとすると、その部分が摩耗したり、筋が残ったりする原因になります。縫い目に沿って自然に折り、指先でなく手のひら全体で整えるように意識してください。 - 折り返す位置
特に「おくみ線」や「袖付け」など、折り返す線は着物の構造上、シワができにくい場所です。この既存の線にぴったり合わせることで、着物への負担を最小限に抑えられます。
畳んだ後の正しい保管方法
せっかくきれいに着物を畳んだ後も、保管方法が間違っていると、すぐに状態が劣化してしまいます。大切な着物を守るための、正しい保管方法を知っておきましょう。
たとう紙の役割
たとう紙(文庫紙)は、着物を保管するための専用の和紙です。
- 通気性と着物の保護
たとう紙は適度な通気性がありながらも、外部のホコリやチリ、光から着物を守る役割があります。湿気を吸い取る効果もありますが、湿気がたまりすぎると、たとう紙自体が劣化し、着物にカビが生える原因となるため、定期的な交換や点検が必要です。 - 防虫剤との関係
たとう紙の中に防虫剤を入れる場合は、着物に直接触れないよう、たとう紙の外側の角などに入れるのが一般的です。また、複数の種類の防虫剤を併用すると化学反応を起こして着物を傷める可能性があり、注意が必要です。
収納場所の選び方について
着物の収納には、最適な環境があります。
- 湿気の少ない場所
着物の最大の敵は湿気とカビです。床下収納や北側の壁面など、湿気がたまりやすい場所は避け、風通しの良い、押入れの上段や着物専用の桐ダンスなどに収納しましょう。桐は調湿効果に優れているため、着物の保管に最適とされます。 - 光を避ける
直射日光や蛍光灯の光に長時間当たると、着物の染料が変色・退色してしまいます。必ず、たとう紙に包んで光を遮断できる場所に保管してください。 - 定期的な点検と虫干し
最低でも年に1〜2回は着物を広げ、虫干し(陰干しで風を通す作業)を行うことが推奨されます。この際に、シワやカビ、虫食いがないかを確認し、たとう紙を新しくすると、より着物を長持ちさせることができます。
着物を収納・保管する上での基本や注意点については、以下の記事でも詳しく解説しています。
まとめ
大切な着物を美しく保つための第一歩は、正しい着物の畳み方「本畳み」を習得することにあります。着物は、単なる衣装ではなく、日本の文化、そしてご家庭の思い出を紡ぐ財産です。正しいお手入れ方法を知ることで、着物は何十年と受け継いでいくことができます。
もし、ご自身でのお手入れに不安がある場合や、大切な着物のシミ抜き、丸洗い、寸法直しなどでお困りの際は、プロの技術にお任せください。
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