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着物の染み抜き、自分でやる前に!汚れの種類と失敗しないための注意点

大切な着物にうっかりシミが!「クリーニングに出す時間がない」「少しの汚れだから自分で何とかしたい」と思うこともありますよね。
確かに、ついたばかりの軽いシミであれば、自分で応急処置をすることで目立たなくできる場合もあります。しかし、着物は非常にデリケートな素材でできているため、自己判断で染み抜きを行うと、かえってシミを広げたり、生地を傷めたりするリスクも伴います。
この記事では、まずシミの種類を見極めることの重要性から解説し、自分で染み抜きに挑戦する前に知っておくべき注意点、そして自分でできる応急処置の方法、プロに任せるべきケースについて、失敗しないためのポイントを詳しくご紹介していきます。
まずは落ち着いて!着物のシミの種類を見極めることが重要
大切な着物にシミがついてしまうと、慌ててしまいますよね。しかし、焦って自己流で対処してしまうと、かえってシミを広げたり、生地を傷めたりする原因になりかねません。着物の染み抜きで最も大切なのは、まずシミの種類を正確に見極めることです。種類によって対処法が全く異なるため、ここを間違えると取り返しのつかないことになる可能性があります。
シミは時間との勝負!放置すると落ちにくくなる理由
シミは、ついてからの時間が短いほど落としやすいのが一般的です。時間が経つと、汚れの成分が繊維の奥深くまで浸透し、酸化して変質してしまうため、除去が非常に困難になります。
特に、最初は目立たなかった汗ジミなどが、後になって黄ばみ(黄変)として現れることも少なくありません。シミに気づいたら、できるだけ早く、そして正しい方法で対処することが肝心です。ただし、「早く」といっても、慌てて間違った処置をするのは禁物です。
シミの種類は大きく3つ|見分け方と特徴
着物につくシミは、その原因によって大きく3つのタイプに分類できます。それぞれの特徴を知り、どのタイプに当てはまるかを見極めましょう。
1. 水溶性のシミ(お茶・ジュース・汗など)
水溶性のシミは、水に溶けやすい性質を持つ汚れが原因でできるシミです。
- 主な原因: お茶、コーヒー、ジュース、お酒、醤油(油分を含まないもの)、汗、雨水など。
- 見分け方・特徴: 輪郭が比較的はっきりしていることが多いです。ついた直後であれば、水だけで比較的落としやすい場合がありますが、糖分や色素を含むものは時間が経つと変質し、黄ばみや茶色いシミになりやすい傾向があります。汗ジミは、乾くと見えなくなっても、後から黄変として現れる代表的な例です。
2. 油溶性のシミ(ファンデーション・口紅・食べ物の油など)
油溶性のシミは、油に溶けやすい性質を持つ汚れが原因です。水だけでは落とすことができません。
- 主な原因: ファンデーション、口紅、皮脂、バターやマヨネーズなどの油分の多い食品、ボールペン(油性)、機械油など。
- 見分け方・特徴: 輪郭がぼんやりとしていて、滲んだように見えることが多いです。水を弾くため、水を垂らしても染み込みにくいのが特徴です。落とすためには、ベンジンなどの油を溶かす溶剤が必要になります。
3. 不溶性のシミ(泥・墨・サビなど)
不溶性のシミは、水にも油にも溶けない固形成分が付着したものです。
- 主な原因: 泥はね、墨汁、サビ、鉛筆の芯、線香の灰など。
- 見分け方・特徴: 汚れの粒子が繊維の隙間に入り込んでいる状態です。こすると粒子が繊維の奥に入り込んでしまうため、注意が必要です。泥などは、まず完全に乾かしてから、優しく払い落とすのが基本です。
要注意!混合性のシミや原因不明のシミ
厄介なのは、上記の複数の性質を併せ持つ「混合性のシミ」です。例えば、ドレッシングやラーメンの汁などは、油分と醤油などの水分が混ざっています。また、原因がはっきりしないシミも、どの対処法が適切か判断が難しくなります。
これらのシミは、自分で対処するのが非常に困難であり、無理に処置するとシミを定着させてしまう可能性が高いです。
「自分で染み抜き」はリスクも?挑戦する前に知るべきこと
「自分でできるかも?」と思うような小さなシミでも、着物の染み抜きには専門的な知識と技術が必要です。自己流の処置は、シミを悪化させたり、大切な着物を傷めたりするリスクが伴います。挑戦する前に、どのようなシミなら自分で対処できる可能性があるのか、そして絶対に守るべき注意点について、しっかり理解しておきましょう。
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自分でできる可能性があるシミとは?
基本的には、着物の染み抜きはプロに任せるのが最も安全で確実です。しかし、限定的な状況下であれば、応急処置として自分で対処できる可能性もあります。
- ついた直後の水溶性のシミの一部
お茶やジュースなど、水溶性のシミで、なおかつ付着してから時間が経っていないものに限られます。ただし、シミの種類や着物の素材によっては、水を使っただけでも輪ジミになったり、生地が縮んだりするリスクがあります。あくまで応急処置と捉え、本格的な染み抜きはプロに相談することを前提としましょう。 - 素材の確認は必須(正絹などは特に注意)
自分で対処できる可能性があるのは、水洗いが可能な素材(一部の木綿、麻、ポリエステルなど)に限られます。正絹、ウール、レーヨンなどの水に弱い素材や、絞り、刺繍、金彩などの特殊な加工が施されている着物は、絶対に自分で水や洗剤を使わないでください。縮み、色落ち、風合いの変化など、取り返しのつかないダメージを与えてしまう可能性が非常に高いです。洗濯表示や素材が不明な場合も、自己判断は避けましょう。
自分で染み抜きする際の【絶対】注意点
もし、上記の条件を満たし、応急処置を試みる場合でも、以下の注意点を必ず守ってください。少しでも不安がある場合は、すぐに作業を中止し、プロに相談しましょう。
注意点1:まずは目立たない場所で試す
染み抜きを始める前に、必ず着物の共布(ともぎれ:着物を作った際の余り布)や、裏地、縫い代など、目立たない部分でテストを行います。水や使用する予定の薬剤(薄めた中性洗剤など)を少量つけてみて、色落ちや変色、縮みなどが起こらないかを確認します。ここで問題が見られた場合は、絶対に自分で染み抜きを行わないでください。
注意点2:絶対に「こすらない」!優しく叩くのが基本
シミを落とそうとしてゴシゴシこするのは厳禁です。摩擦によって生地表面が毛羽立ったり(スレ)、色が白っぽくなったり、シミが周りに広がったりする原因になります。染み抜きは、シミの裏側に乾いたタオルなどを当て、表側から軽くトントンと叩くようにして、汚れを下のタオルに移し取るのが基本です。
注意点3:使うもの(水、洗剤、ベンジン等)は慎重に選ぶ
水を使う場合も、水道水を直接かけるのではなく、固く絞った布で叩く程度にします。洗剤を使用する場合は、必ずおしゃれ着用の中性洗剤を薄めて使い、アルカリ性洗剤や漂白剤は絶対に使用しないでください。 油性のシミにベンジンを使用する方法も紹介されることがありますが、非常に扱いが難しく、輪ジミや色落ちのリスクが高いため、専門知識がない場合は手を出さないのが賢明です。引火性もあるため、火気にも十分注意が必要です。
注意点4:「輪ジミ」のリスクを理解しておく
水や薬剤を使った部分と、そうでない部分の境界線がくっきりと輪のように残ってしまう「輪ジミ」。これは、汚れが完全に落ちきらずに周りに移動したり、水に含まれる不純物が残ったりすることで発生します。一度できてしまうと、プロでも除去が難しい場合があります。輪ジミを防ぐには、シミの部分だけでなく、その周りをぼかすように水分を与え、乾かす際もドライヤーなどで急速に乾かさず、自然乾燥させるなどの工夫が必要ですが、完全には防げないリスクとして認識しておきましょう。
注意点5:生地の縮みや色落ち、金彩・刺繍への影響
特に正絹などのデリケートな素材は、水分を含むと縮みやすい性質があります。また、染料によっては水濡れで色が滲んだり、流れ落ちたりすることもあります。金彩や刺繍の部分は、摩擦や薬剤によって剥がれたり、糸がほつれたりする可能性があるため、シミがその部分にかかっている場合は、絶対に自分で触らないようにしましょう。
こんな場合はプロへ!自分で処理すべきでないシミ
以下のケースに当てはまる場合は、自分で対処しようとせず、速やかに着物専門のクリーニング店や染み抜き業者に相談してください。
- 時間が経過したシミ・黄ばみ(変色): ついてから時間が経ったシミや、黄ばみ・茶色く変色してしまったシミは、繊維の奥で汚れが変質・定着しているため、家庭での処置ではまず落とせません。無理に触ると生地を傷めるだけです。
- 油溶性のシミ・不溶性のシミ全般: ファンデーションや口紅、食べ物の油などの油溶性のシミ、泥や墨などの不溶性のシミは、水だけでは落とせず、特殊な溶剤や技術が必要です。
- 広範囲に広がったシミ: シミが広範囲に及んでいる場合、自分で均一に処置するのは困難で、ムラになったり輪ジミが広がったりする可能性が高いです。
- 原因がわからないシミ: 何の汚れか分からないシミは、適切な対処法を判断できません。間違った処置をしてしまうリスクがあります。
- 高価な着物・礼装・デリケートな素材(正絹・絞りなど): 留袖や振袖などの礼装、作家物などの高価な着物、正絹、絞り、綸子(りんず)などデリケートな素材の着物は、失敗した時の代償が大きすぎます。迷わずプロに任せましょう。
【種類別】あくまで応急処置!自分でできる簡単な対処法
ここでは、シミの種類別に、ごく初期段階で試せる可能性のある応急処置と、自己責任のもとで行う簡単な対処法をご紹介します。繰り返しになりますが、これらは本格的な染み抜きではなく、あくまでも一時的な対応です。処置後は必ずプロに相談してください。また、正絹などのデリケートな素材には行わないでください。
水溶性のシミ(お茶、ジュースなど)の場合
応急処置:乾いた布やティッシュで水分を吸い取る
シミがついたら、絶対にこすらず、まずは乾いた清潔な布やティッシュペーパーをそっと押し当てて、できる限り水分を吸い取ります。シミの外側から中心に向かって行うと、シミが広がるのを防ぎやすくなります。
※注意点: 叩きすぎると生地が傷むことがあります。少し試して落ちないようであれば、すぐに中止しましょう。
油溶性のシミ(ファンデーション、口紅など)の場合
応急処置:ティッシュなどで油分を丁寧に吸い取る
油溶性のシミの場合も、こすらずにティッシュペーパーなどで油分をできるだけ吸い取ります。上から押さえるようにして、油分をティッシュに移しましょう。
泥はねなどの不溶性のシミの場合
応急処置:完全に乾いてから、優しくブラシなどで払い落とす
泥はねなどの不溶性のシミは、濡れている状態で触ると、汚れが繊維の奥に入り込んでしまいます。まずは慌てずに、シミが完全に乾くのを待ちます。乾いたら、柔らかいブラシ(歯ブラシなどでも可)を使って、生地を傷めないように優しく一方方向に払い落とします。強くこすらないように注意してください。これだけで落ちない場合は、無理せずプロに相談しましょう。
やっぱりプロが安心!専門業者に頼むメリット
ここまで自分でできる応急処置について触れてきましたが、やはり着物の染み抜きは専門の業者に依頼するのが最も確実で安心です。プロに任せることには、以下のようなメリットがあります。
専門的な知識と技術で最適な処置をしてくれる
プロの職人は、シミの種類、着物の素材、染色の状態などを正確に見極め、それぞれに最適な薬剤や技術を用いて処置を行います。長年の経験と知識に基づいた判断で、家庭では落とせない頑固なシミにも対応してくれます。
着物へのダメージを最小限に抑えられる
着物は非常にデリケートです。プロは、生地の種類や状態に合わせて、負担の少ない方法で丁寧に作業を行います。色落ちや縮み、風合いの変化といったリスクを最小限に抑えながら、シミだけを効果的に除去してくれます。
古いシミや黄ばみ、難しいシミも諦めずに相談できる
「もう何年も前のシミだから…」「黄ばんでしまって…」と諦めていた着物も、プロの技術なら蘇る可能性があります。特殊な薬剤や技術を用いた「黄変抜き」など、専門業者ならではの高度な処置で対応してくれる場合があります。原因不明のシミや混合性のシミなど、自分で対処するのが難しい場合も、まずは相談してみる価値があります。
失敗のリスクがなく、精神的な負担も少ない
自分で染み抜きを行う場合、「失敗したらどうしよう」という不安が常につきまといます。プロに任せれば、そうした心配から解放され、安心して任せることができます。万が一、プロの作業で問題が発生した場合でも、補償制度などが用意されていることがほとんどです。
まとめ:着物の染み抜きは自己判断せず、まずはシミの種類を見極めて
着物にシミがついてしまった場合、最も重要なのはシミの種類を正確に見極め、適切な対処をすることです。ついた直後のごく一部の水溶性のシミを除き、基本的に自分で染み抜きを行うことはリスクが高いと認識しておきましょう。特に正絹などのデリケートな素材や高価な着物は、迷わずプロに相談することが大切です。
応急処置として自分で対処する場合も、必ず目立たない場所でテストを行い、「こすらない」「叩くように」という基本を守り、少しでも不安があればすぐに中止してください。
時間が経ってしまったシミや黄ばみも、諦めずに専門業者に相談すれば、きれいに落とせる可能性があります。信頼できるプロに任せることで、大切な着物を末永く美しく保つことができます。
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