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知っておきたい着物と羽織のマナー!季節の変わり目に注意

着物でお出かけの際、いつ羽織を着るべきか、どこで脱ぐべきか、迷われた経験はありませんか?
特に季節の変わり目は、防寒とTPOのバランスを取るのが難しいものです。
羽織は着物姿を格上げしてくれるおしゃれなアイテムですが、マナーを知らないと、せっかくの装いが台無しになってしまうこともあります。
近年、着物でお出かけを楽しむ方が増える一方で、洋服にはない和装特有のルールに戸惑うという声も多く聞かれます。
本記事では、皆様が自信を持って着物を着こなせるよう、羽織を着用する季節やTPO、そして美しく見える着脱のタイミングなどの基本マナーをわかりやすくご紹介していきます。
着物用の羽織・コートの違いとは?基本知識や役割
着物の上に着るものとして「羽織」「道行コート」「道中着」など様々な種類がありますが、それぞれに役割や着用マナーが定められています。ここでは、まず基本的な違いと、着物の上着が持つ役割について見ていきましょう。
「羽織」と「コート」の決定的な違い
着物の上着を選ぶ際に最も重要なのが、羽織とコートの区別です。洋服に例えるなら、羽織はカーディガンやジャケット、コートは文字通り外套にあたります。
羽織は着物と同格のおしゃれ着とされ、基本的に室内で脱ぐ必要はありません。一方、コート(道行、道中着など)は塵除けや防寒を目的とした外套であり、室内に入る前に必ず脱ぐのがマナーです。
道行コート、道中着とは?それぞれの特徴と格
コート類には、主に道行コートと道中着の二種類があります。どちらも外出着ですが、デザインと格において違いがあります。
| 種類 | 特徴 | 格 |
|---|---|---|
| 道行コート | 四角い襟が特徴で、前をボタンなどで留めます。 きちんと感があり、羽織よりもやや格が高いとされ、準礼装にも適します。 |
ややフォーマル寄り |
| 道中着 | 着物の打ち合わせのように前を紐で結ぶのが特徴。 道行コートよりもカジュアルな印象を与え、普段の外出に重宝します。 |
カジュアル寄り |
特に格式を重んじる場では、道行コートの方が適していますが、いずれも洋服のコートと同じく、訪問先や会場の室内に入る直前に脱ぐのが作法です。
着物の上着が持つ役割
着物の上着は、単なる防寒具ではありません。その日の天候やTPO、そして着こなしのアクセントとして、三つの重要な役割を担っています。
- 防寒:寒い季節に、体温を保つ役割です。特に袖口や裾からの冷えを防ぐため、裏地のある袷仕立てのものが使われます。
- 塵除け:外出時の砂埃や汚れから大切な着物を守るための役割です。雨の日は撥水加工されたコートを着用し、夏場でも薄い素材のコートや羽織で塵を防ぎます。
- おしゃれ:羽織に特有の役割です。着物本体とは異なる色柄や、ちらりと見える裏地(羽裏)にこだわることで、個性や「粋」な遊び心を表現するファッションアイテムとなります。
これらの役割を理解することで、着物の上着選びはより楽しく、実用的なものになるでしょう。
羽織を着用する季節
羽織は一年中着用される可能性がありますが、季節によって素材や仕立てを変えるのが和装の醍醐味です。ここでは、季節ごとの基本的な着用ルールと、迷いやすい季節の変わり目の対応について解説します。
羽織を着るのに最適な季節はいつ?
羽織が最も活躍するのは、主に秋から春にかけての寒い季節です。一般的に着物のルールと連動しており、10月〜5月頃の袷(あわせ)の季節に裏地付きの羽織が使われます。
ただし、羽織はコートのように明確な着用時期の決まりはなく、その日の気温や体感に合わせて柔軟に着用して構いません。例えば、夏でもクーラー対策として薄手の羽織(夏羽織)を携帯する方も多くいます。
季節の変わり目(春・秋)の温度調整と選び方
袷から単衣、単衣から袷へと着物を替える季節の変わり目(春先や秋口)は、特に体温調整が難しく、羽織が重宝します。
春先(3月~4月)
まだ冷え込む日が多いため、袷の羽織やコートは必須です。ただし、素材の色を明るめにしたり、春らしい色合いを取り入れることで、重たい印象を避ける工夫をします。
秋口(9月~10月)
9月は着物が単衣(ひとえ)になる時期です。この時期は、裏地のない単衣の羽織や、薄手の塵除けコートがおすすめです。単衣の羽織は、防寒というよりは塵除けやおしゃれのアクセントとして重宝します。10月に入り着物が袷に変わったら、羽織も裏地付きの袷の羽織に移行することが一般的です。
羽織を着用する際のルール
羽織はおしゃれ着ですが、TPOをわきまえた着用が必要です。特に格式高い場においては、羽織が「略式」と見なされ、着用を避けるべきシーンがあります。
結婚式や格式高いお茶席で羽織はOK?
羽織を着用して良いかどうかの判断は、その場の「格式」によって決まります。
結婚式・披露宴
原則としてNGです。結婚式は最も格の高い礼装(正礼装・準礼装)を着用する場であり、羽織は略礼装やお洒落着と位置づけられるため、着用は避けるのが慣例です。
お茶席(茶道)
茶室に入る際は、亭主への敬意を示すため、コート類はもちろん、羽織も脱ぐのが作法です。待合室などでは着用していても、席入りの直前に脱ぎ、丁寧に畳んで風呂敷などに包んでおきます。
これらのフォーマルな場では、室内に入る前に必ず脱ぐべき道行コートなどの外套を着用し、室内では上着なしで臨むのが正しいマナーです。
羽織を着てはいけない「フォーマルな場面」の基本
結婚式以外にも、羽織の着用を避けるべき場面は弔事(お通夜・お葬式)です。
弔事
喪服(黒紋付)を着用する際は、羽織は避けるのが基本です。黒であっても羽織は略式と見なされます。この場合も、塵除け・防寒のためにコート(黒の道行コートなど)を着用し、会場に入る前に脱ぐのが正しいマナーです。
例外として、羽織に一つ紋を付けたものは略礼装として扱われますが、現代のフォーマルシーンにおいては、コート類を着用して室内では脱ぐという対応が、最も失敗が少ない品のある振る舞いとなります。
羽織の着脱とふるまいのマナー
着物姿の美しさは、単に衣装の美しさだけでなく、立ち居振る舞いによって大きく左右されます。特に羽織の着脱は人目に触れる機会が多いため、優雅な動作を意識することが大切です。
羽織を脱ぐタイミングと畳み方
羽織を脱ぐタイミングは、訪問先や会場への敬意を示す上で非常に重要です。
- 訪問宅:玄関先で「失礼します」と挨拶を述べる前に脱ぐのが最も丁寧です。
- ホテルや会場:ロビーやクロークがある場合は預け、ない場合は席に着く直前に脱ぎます。
脱いだ羽織は、無造作に扱わず、「本畳み」で丁寧に畳みます。本畳みは、裏地を汚さず、シワになりにくい畳み方です。丁寧に畳まれた羽織は、持ち物すべてが整っているという、着物姿の完成度を高める要素となります。
正しい羽織の着方と前紐(羽織紐)の結び方
羽織を羽織る動作一つも、和装の美意識が表れます。
- 着方:袖を通す際、着物や長襦袢の袖が羽織の中で絡まったり、ずれたりしないよう、両袖口を軽く押さえながら静かに袖を通します。
- 羽織紐の結び方:羽織紐の結び方で最も一般的で美しいのは、「ちょう結び」です。結び目を体の中心に合わせ、ふっくらと結ぶことで、上品な印象を与えます。
食事の席や座敷での羽織の取り扱い方
室内で羽織を脱いだ後の取り扱いにも、細やかな配慮が必要です。
- 食事の席:基本的に食事中は脱ぎます。椅子がある場合は、背もたれにかけると羽織が床に触れたり、邪魔になったりするため、綺麗に畳んで椅子の座面の上に置くか、膝元に寄せておきます。
- 座敷:座敷に上がる際は脱ぎ、畳んだ羽織を直接畳や床に置くのはマナー違反です。風呂敷やバッグに入れるか、丁寧に畳んで隅に置かせてもらいましょう。
美しい立ち居振る舞い
動作の一つ一つを丁寧にすることで、着物姿の品格が保たれます。
- 脱ぐ時:背筋を伸ばし、慌てず、静かに羽織を体から滑らせるように脱ぎます。
- 着る時:羽織を広げる際も、音を立てず、体に近い位置で広げて袖を通します。
こうした優雅な立ち居振る舞いは、周囲に美しさと教養を示す大切な要素です。
着物と羽織のコーディネートと選び方
羽織は、防寒や塵除けという実用性だけでなく、着物姿全体の印象を決めるおしゃれの要です。着物の種類や格に合わせて、最適な羽織を選ぶための知識を深めましょう。
訪問着・付下げなど着物の種類に合わせた羽織の格と丈
羽織を選ぶ際は、着物の格に合わせることがコーディネートの基本です。
準礼装(訪問着、付下げ)
格を合わせるためには、一つ紋をつけた羽織が最適です。色は着物と同系色で抑えたり、落ち着いた柄を選ぶことで、全体が調和し、上品な印象になります。
カジュアル(小紋、紬)
普段着の場合は、色柄や素材に制約はありません。鮮やかな色や個性的な柄、長羽織などで大胆におしゃれを楽しんでください。
また、丈にも注目です。最近は膝下まである長羽織が人気で、すらりとした着姿に見せる効果があります。一方で、太もも丈の中羽織は伝統的で軽快な印象を与えます。
長羽織・中羽織・夏羽織の種類と選び方
羽織は丈や用途によって様々な種類があり、それぞれを使い分けることで、より洗練された着こなしができます。
| 種類 | 特徴 | 着用時期・用途 |
|---|---|---|
| 長羽織(ながばおり) | 膝下まである現代的な丈。スマートで都会的な印象。 | 主に冬の袷の季節、おしゃれ着 |
| 中羽織(ちゅうばおり) | 太もも丈の伝統的な丈。軽快で可愛らしい印象。 | 袷の季節、カジュアル |
| 夏羽織(なつばおり) | 絽や紗など透け感のある素材。 | 盛夏、塵除け・冷房対策、おしゃれ |
着用目的や好み、そして体型に合わせて丈を選ぶことが、着こなしを成功させる鍵となります。
裏地や素材にこだわる おしゃれ着としての楽しみ方
羽織は、裏地(羽裏)にまでこだわって楽しむのが和装の「粋」な文化です。
- 羽裏(はうら):表地は控えめでも、羽裏に大胆な柄や鮮やかな色を選ぶのが「裏勝り(うらまさり)」と呼ばれるおしゃれです。脱いだ時や、風が吹いた時にちらりと見える裏地が、着物通の遊び心を表現します。
- 素材:正絹の羽織はフォーマルな装いに格を与えます。カジュアルな普段使いには、ウールや木綿、最近ではポリエステルなどの扱いやすい素材も人気があります。
羽織は、着物本体だけでは表現しきれない個性を出すための、重要なアイテムです。
まとめ:マナーを知って自信を持って着物でお出かけを
着物を着る機会が増えるにつれて、着物の羽織の知識は欠かせないものになります。特に季節の変わり目や、TPOをわきまえた場での振る舞いは、その方の教養と品格を示す大切な要素です。
本記事でご紹介したマナーやルールを実践することで、迷うことなく、自信を持って着物姿を楽しんでいただけることでしょう。
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